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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)58号 判決 1997年9月02日

ドイツ連邦共和国、2000 オストスタインベック、ヴーゼンヴエーク 51

原告

グロイヤー・ヴオルフガング

訴訟代理人弁理士

篠原泰司

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

祖山忠彦

後藤千恵子

吉野日出夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成6年審判第2590号事件について平成7年11月2日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文第1、2項と同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1984年(昭和59年)1月20日及び同年10月20日にドイツ連邦共和国にした特許出願及び実用新案登録出願に基づいて特許協力条約8条による優先権を主張して、名称を「多重包装」とする発明(以下「本願発明」という。)について昭和60年1月18日特許出願(昭和60年特許願第500522号)をしたが、平成5年10月28日拒絶査定を受けたので、平成6年2月14日審判を請求し、平成6年審判第2590号事件として審理された結果、平成7年11月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年12月6日原告に送連された(なお、出訴期間として90日が附加された。)。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項の記載)

細長くてその上にほぼ同一形状と同一寸法の複数の容器(2、101、201)が立てられる底面(10、111、121、211)と、

前記底面(10、111、121、211)の両側端に底面の長手方向に沿って延在する折り曲げ線(4、5)から上方へ折り曲げられて、互いに平行に対向可能な二つの側壁(11、12、112、113、122、123)とを有しており、

前記側壁(11、12、112、113、122、123)の高さが上記容器(2、101、201)の高さ以下である

厚紙(1、110、120)によって本質的に形成された多重包装において、多重包装の、底面の長手方向側端面が覆われずに開放されており、

前記容器(2、101、201)の高さの約半分の高さに、前記側壁(11、12、112、113、122、123)と前記端面を横切るようにして、巻きバンド(17、115、125)が巻回されて、多重包装を一体に緊結しており、

開放されている前記端面にて、巻きバンド(17、115、125)と、前記容器(2、101、201)の間の空間を利用して巻きバンド(17、115、125)を掴むことによって、多重包装が運搬可能になされており、かつ

前記容器(2、101、201)がそれぞれ個別に移動不能なように、抑止手段(15、16、116、126、127)が形成されていることを特徴とする多重包装(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)本願発明の要旨は前項に記載のとおりである。

(2)これに対して、昭和50年特許出願公開第152894号公報(以下、「引用例1」という。別紙図面2参照)には、以下の記載が、図面とともに記されている。

(イ)「以下本発明の実施例たる図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。第1図は本発明方法により整列ガラスビンの底面及び2側面を被覆した状態を示す平面図、第2図(A)、(B)はいずれも本発明方法により包装を完了した状態の相隣る側面を示す側面図、第3図は本発明方法に用いて好適な段ボールの形状を示す平面図である。本発明方法においては、まずガラスびん1を長方形の段ボール等厚紙2上に整列する。この場合の整列方法としてはガラスびん1の形状等に応じ千鳥状または直列状のうち好適な方を選ぶ。整列が終ると長手方向の両端から等距離の2点で厚紙を上方へ折り曲げ整列びんの対向する2側面を被覆、又はこれらに接触させる。第1図はこのようにしてガラスびん1の底面及び2側面を厚紙2で被覆した状態を示すものであり、厚紙2の折曲部2aは第1及び第5縦列のびんに接触している。次に整列びん1の2側面に接触する折曲部2a面及び整列びん1の厚紙に覆われない2側面すなわち第1図における第1及び第4横列の側面を第2図に点線で示すように例えば2条の糊付紙テープ3で巻く。換言すれば整列ガラスびん1の4周を紙テープで緊縛するのである。本発明包装方法はこのようなきわめて簡易な方法であるため、段ボール等包装材料の節約効果は著しいものがある。しかも段ボールの強度はこのようにして用いた場合思いの外大きいものであり、本発明方法により包装された包装物は両手を底あるいは折曲部2aに貫設した把持孔にかけることにより容易に運搬することができるとともに耐久力も大である。なお、ガラスびん1の形状、本数増加等により包装物を把持孔により把持運搬等の際、折曲部2aを有しない2方向へガラスびん1がはみ出すおそれがある場合は、厚紙2のこれらの側に紙テープ3を施した時に辛うじてかかる程度の短い折曲部を設けるのが良い。」(460頁上段左欄1行ないし同段右欄末より4行)

(ロ)「図示しないが折曲部2aと平行に段ボール等の仕切板を各列の間に入れる時はより一層びんの一体化が達成され、各びんが揺動したりすることはないから、人又は車による運搬の際又は幾層も積み重ねて保管する場合において破損等の事故はほとんど皆無である。本発明包装方法によればびん口部は露出しているわけであるが底面に段ボールが当てられているため積重ねても口部の破損することはまずない。」(460頁下段左欄7行ないし15行)

また、米国特許第3212636号明細書(クラス206)(昭和41年2月22日特許庁資料館受け入れ、以下「引用例2」という。別紙図面3参照)には、以下の記載が、図面と共に、記されている。

(イ)「この発明は、殊に、主要荷積みトレーに4個若しくはそれ以上のユニットで供する、いわゆる6個組み包装の積出し包装に関する。」(1欄13行ないし15行)

(ロ)「この発明は、上端が開いた搬送用の紙箱の複数個を保持するための主要荷積みトレーにおいて、紙箱の開口端に存する外部障害を受け易い商品を保護するための、緩衝手段を提供することを、第1の目的とするものである。この発明の更に特殊な目的は、前述したこの種の荷積みトレーにおいて、通常の取扱いや荷積みにおいて生ずる衝撃や衝突による損傷から商品を保護するために、底壁の境界部から切られ、且つトレーの側壁とトレー内の紙箱端部に存する外にさらされた商品との間に90°上方に折り曲げられた緩衝タブを提供することである。」(1欄22行ないし32行)

(ハ)「もし、望むならば、荷積みトレーの底壁は、そこから、トレー内に収容された包装体の間に隣接して上方に突出する横断方向に延びる間隔子又は区画タブ(26)の複数を、切って(形成して)もよい。」(2欄21行ないし24行)

(3)<1>引用例1記載の発明を本願発明との対応において言及してみると、引用例1記載の「整列ガラスびん」、「厚紙2の容器が立てられる底面部(折線2bで挟まれた中央部分)」、「折曲線2b」、「折曲線2a」及び「テープ」は、本願発明に言う、「細長くてその上にほぼ同一形状と同一寸法の複数の容器」、「同一寸法の複数の容器が立てられる底面」、「底面の両側端に延在する折り曲げ線」「折り曲げ線から上方へ折り曲げられて、互いに平行に対向可能な2つの側壁」及び「巻きバンド」に、それぞれ相当している。

また、引用例1記載の「各列の間に入れる段ボール等の仕切板」は、本願発明にいわゆる「容器が移動不能なように(する)抑止手段」に相当しているということができる。

蓋し、引用例1記載の仕切板も、容器列の間に入れて、一層容器の一体化が達成され、各容器が揺動したりすることはないものであるから、本願発明の抑止手段と同様、容器の個別の移動を不能なようにし、を実現しているというべきであり、かつ、抑止手段は、底面から突出され、若しくは、側壁の延長であることまでは、本願発明の構成要件とはされていないからである(なお、底面より突出した抑止手段は、引用例2に開示されている。(後述))。

そして、引用例1記載の発明も、「側壁の高さが、容器の高さ以下であり、」「厚紙によって本質的に形成された多重包装において、多重包装の、底面の長手方向側端面が覆われずに開放されており、」かつ「容器の高さの約半分の高さに、側壁と端面を横切るようにして、巻きバンドが巻回されて、多重包装を一体に緊結しておる」ものであることは、引用例1の図示の態様及びその説明に照らして明らかなことである。もちろん、引用例1記載の発明の多重包装も運搬可能になされているものである。

<2>引用例2記載の「トレー底壁から上方に突出する横断方向に延びる区画タブ(26)」は、その技術概念及びその機能からみて、本願発明に言う「抑止手段が形成されている」に符合するものととらえられる。

(4)(3)の<1>に記載のとおりであるから、引用例1には、

「細長くてその上にほぼ同一形状と同一寸法の複数の容器が立てられる底面と、

前記底面の両側端に沿って延在する折り曲げ線から上方へ折り曲げられて、互いに平行に対向可能な二つの側壁とを有しており、

前記側壁の高さが上記容器の高さ以下である

厚紙によって本質的に形成された多重包装において、

多重包装の、底面の長手方向側端面が覆われずに開放されており、

前記容器の高さの約半分の高さに、前記側壁と前記端面を横切るようにして、巻きバンドが巻回されて、多重包装を一体に緊結しており、

開放されている前記端面にて、巻きバンドを利用して、多重包装が運搬可能になされており、かつ

前記容器がそれぞれ個別に移動不能なように、抑止手段が形成されている多重包装。」

が、開示されていると把えられる。

引用例1記載の発明と本願発明とを比較してみると、

<1> 2つの側壁を折り曲げる折り曲げ線の延在方向が、本願発明は、底面の長手方向に沿っているのに対して、引用例1記載の発明にあっては、底面の短手方向に沿っている点、及び、

<2> 多重包装を運搬可能になすにつき、本願発明は、容器の間の空間を利用して巻きバンドを掴むことによつているのに対して、引用例1記載の発明は、かかる容器間空間を利用する手段を採っているかは定かではない点

において、それぞれ相違している。

その余の構成部分については、前記のとおり、両者間に格別の相違が存するとはいえない。

(5)そこで、これらの相違点につき審案する。

<1> 相違点<1>について

この種多重包装において、トレーの底面の長手方向に延在する折り曲げ線から側壁を折り曲げる発明は、この出願前、普通に知られている(必要ならば、例えば、昭和48年特許出願公開第27875号公報、米国特許第3493107号明細書(昭和45年5月13日特許庁資料館受入れ))。

よって、本願発明が、引用例1記載の発明の折り曲げ線の延在方向を、底面の長手方向に沿ってなした点は、上記周知例に擬して、容易に設計変更をすることができたものというべきである。

<2> 相違点<2>について

引用例1の発明は、容器間の空間を利用して巻きバンドを掴むことについては明らかではないものの、一般に、バンド巻きの梱包体を運搬するにあたり、その容器(梱包物)間の空間を利用して掴むことによってなすことは、この出願前、普通に知られている(必要ならば、例えば、昭和53年特許出願公開第111891号公報(以下「周知例1」という。第1、3、4図参照)、昭和53年特許出願公開第175563号公報(以下「周知例2」という。400頁右欄)参照。周知例2の「本発明方法によって結束されたユニットは、中央の列のガラスびんの最外方の各びんの外側には、ほぼ十字形に交差されているバンドの部分が現われ、それらの交差箇所が全体のユニットの対称平面内にあるので、これらのバンドの交差部分を取手として使用することによって、ユニットの取扱いを非常に容易とすることができるという利点も得られる。」の文言及び図示の態様から、容器間の空間を利用した掴持搬送が開示されていることが分かる。)。

したがって、この点は、上記周知の掴持の手段を引用例1記載の発明に採用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。蓋し、巻きバンドで巻回された包装体を掴持運搬するにつき、バンドと容器(梱包物)間の空間を利用する技術を援用することは、この種の技術に通暁したものにとって想到しやすい道理というべきであるからである。

<3> それ故、本願発明は、引用例1記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(6)仮に、本願発明にいう「抑止手段」は、包装の底面から突出している等包装と一体をなすものととらえたとしても、トレー(多重包装)の底面から突出させて容器の移動が不能となるようにした抑止手段は、前掲引用例2の記載に見られるとおり(区画タブ26)、この出願前公知であるから、引用例1記載の発明の抑止手段に、引用例2記載の発明の如き包装の底面から突出する手段(包装と一体をなす抑止手段)を採用することは、予測可能な公知技術の付加の域をでることとはいえず、本願発明は、引用例1、2記載の各発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたものというべきである。

(7)以上のとおりであるから、本願発明は、この出願前日本国内において頒布された刊行物である引用例1記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、然らずとしても、本願発明は、この出願前日本国内において頒布された刊行物である引用例1、2記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により、本願発明につき特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)ないし(4)は認める。同(5)のうち、相違点<1>についての判断は認め、相違点<2>についての判断のうち、「(相違点<2>は)上記周知の掴持の手段を引用例1記載の発明に採用することによって、当業者が、容易に発明をすることができたものと認められる。蓋し、巻きバンドで巻回された包装体を掴持運搬するにつき、バンドと容器(梱包物)間の空間を利用する技術を援用することは、この種の技術に通暁したものにとって、想到しやすい道理というべきであるからである。それ故、本願発明は、引用例1記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。」との認定判断を争い、その余は認める。同(6)は争わない。同(7)は争う。

審決は、相違点<2>についての判断に当たり、引用例1記載の発明に周知技術を組み合わせて本願発明を得ることは当業者が容易に想到することができないにもかかわらず、これを容易にできると誤って判断したものであって違法であるから、取り消されるべきである。

すなわち、審決は引用例1記載の発明について、多重包装を運搬するにつき「容器間の空間を利用する手段を採っているかは、定かではない」としているが、これは、同発明の技術内容を的確に理解していないものである。引用例1記載の発明は、緊縛手段として紙テープを用い、運搬時には包装物の底または折曲部に設けた把持孔にかけることにより行なうことのみを前提とするものであり、運搬時に開放されている端面にて紙テープを掴んで多重包装を運搬するというようなことを全く示唆していない。

そして、引用例1記載の発明は、互いに平行に対向可能な2つの側壁を有する厚紙を使用しているのに対し、周知例1記載の技術はバンド2が多数の容器(包装袋3)を直接締結した多重包装であり、周知例2記載の技術はバンド20が多数の容器(ガラスびん1~14)を直接結束した多重包装であって、周知例1、2には、引用例1記載の発明のような厚紙を使用する記載はない。したがって、上記のような厚紙を使用する引用例1記載の発明に、このような厚紙を使用しないバンド巻きの梱包体を梱包物間を掴んで運搬するという周知技術を組み合わせて本願発明を得ることは、当業者が容易に想到することができないのである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の各事実は認める。同4は争う。

本件審決の認定判断に誤りはなく、本件審決に原告主張の違法はない。

2  取消事由についての被告の反論

周知例1、2には、底面と二つの側壁を有する厚紙を使用する記載はないが、周知例1、2記載の周知技術は、いずれも、梱包物を巻きバンドにより結束したときに巻きバンドの裏側に生じる空間を利用して、この巻きバンドを掴むなりして梱包体を運搬するものである点においては本願発明と違いはない。

また、梱包物を詰めた段ボール製の梱包ケースを巻きバンドで結束する方式の梱包体において、梱包物を巻きバンドにより結束した際に巻きバンドの裏側に生じる空間を利用して、この巻きバンドを掴んで持運びができるようにすることは周知の事項であるから、巻きバンドを結束具とする梱包体においては、ダンボール製の梱包ケースを使用するか否かにかかわりなく、巻きバンドの裏側に空間が生じるものにあっては、この空間を利用して巻きバンドを掴んで運搬することは周知事項である。

したがって、引用例1記載のガラスびんを詰めた段ボール製の梱包ケースを結束具で緊縛するものにおいて、巻バンドで緊縛し、この巻バンドをつかんで搬送するようにすることは、段ボール製の梱包ケースに要求される強度と前記周知技術を勘案して当業者が容易に想到できたことであるから、周知例1、2に梱包ケースの記載がないことを理由として、相違点<1>に係る構成について引用例1記載の発明に周知例1、2記載の周知技術を組合わせるのが容易でないとする原告の主張は理由がない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)、及び同3(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の認定)、同(3)(引用例1、2記載の発明の技術内容の認定)、同(4)(一致点、相違京の認定)、及び同(5)<1>(相違点<1>についての判断)も当事者間に争いがない。

第2  本願発明の概要について

成立に争いのない甲第8号証中の本願明細書及び甲第11号証(平成6年2月14目付手続補正書)によれば、本願明細書に記載された本願発明の概要は以下のとおりと認められる。

1  形と大きさが同一の多数の円筒状容器を組合わせ、併置した直立の容器を長手方向に少なくとも2列にして多重包装になるようにすることは知られている。従来、このような多重包装は主として折りたたみ式箱の形の包みであって、これは折り曲げ線のついた裁断ボール紙で作られていた。このような折りたたみ式箱の製造には、比較的多量のボール紙材料と多くの作業工程を必要とした。更に片手または両手で多重包装を運搬するために取手を必要とする場合、このボール紙材料には開口部を設けなければならなかった(本願明細書1頁20行ないし2頁5行)。

本願発明の課題は、運搬台に積み重ねることができて、容器の外周面の少くとも一部が外部から見えるようになっており、製造費用が非常に安く、高速による容器の機械充填に適した、ほぼ平行六面体の、手で容易に運搬可能な多重包装を提供することにある(2頁12行ないし16行)。

2  本願発明によれば、上記課題は、本願発明の特許請求の範囲1(本願発明の要旨)記載(前記補正書3頁2行ないし20行)の構成の多重包装によって解決される。

3  また、本願発明の多重包装は、工具を使用せずにかつボール紙又は段ボール紙の材料を破損せずに開けることができ、容器を取り出した後、この梱包材料を場所を取らないように折りたたんで、必要の際再使用することもできる(本願明細書3頁5行ないし9行)。

第3  審決取消事由について

1  引用例1に、容器の高さの約半分の高さに、側壁と端面を横切るようにして、巻きバンドが巻回されて、多重包装を一体に緊結しており、開放されている前記端面にて、巻きバンドを利用して、多重包装が運搬可能になされている多重包装が記載されていることにつき当事者間に争いがないことは、前記第1認定のとおりである。そして、一般に、バンド巻きの梱包体を運搬するにあたり、その容器(梱包物)間の空間を利用して掴むことによってなす技術が、本出願前周知であったことも当事者間に争いがない。

そうすると、引用例1記載の発明のように、巻きバンドで巻回された包装体を掴持運搬するについて、上記周知技術を採用して巻バンドを掴んで運搬可能な構成とすることは、当業者にとって容易であったといわざるを得ない。

2  上記の点について、原告は、引用例1記載の発明は、緊縛手段として紙テープを用い、運搬時には包装物の底または折曲部に設けた把持孔にかけることにより行なうことのみを前提とするものであり、引用例1には運搬時に開放されている端面にて紙テープを掴んで多重包装を運搬するというようなことが全く示唆されていないことを理由として、上記周知技術の採用が容易でないと主張する。

しかしながら、引用例1記載の発明と同一のバンド巻きの梱包体を運搬する技術において、その容器(梱包物)間の空間を利用してバンドを掴むことによってこれを運搬する技術が周知であった以上、上記周知技術を採用するに当たり、引用例1に、運搬時に開放されている端面にて紙テープを掴んで多重包装を運搬するという構成が示唆されている必要があるということはできない。したがって、引用例1記載の発明において示唆されている運搬方法の如何にかからわず、原告の上記主張は失当である。

3  また、原告は、周知例1、2記載の周知技術は、引用例1記載の発明とは異なり、互いに平行に対向可能な2つの側壁を有する厚紙を使用していないことを理由として、引用例1記載の発明に周知例1、2記載の周知技術を採用することが容易でない旨主張する。

検討するに、成立に争いのない甲第6号証によれば、周知例1には、「一定量の品物を積め合せた・・・包装袋を・・・交互に積重ねて積荷ブロックを形成させ、最上段の上部中央又は両端にフォーク挿入用の間隙を保持させたのち積荷ブロックの縦横にバンドをかけ締結して一体化することを特徴とするユニット包装方法」(1頁左下欄5行ないし右下欄1行)、「フォークリフトのフォーク挿入用の間隙5が形成されるので、フォークを挿入して上辺部のバンド2にかけて吊上げることにより容易に運搬することができる。」(3頁左上欄9行ないし13行)、及び「第4図は包装袋を敷き並べて積荷ブロック1とする際に、最下段の下面に・・・ダンボールのごとき敷物8を介在させた場合を示す。包装物3をバンドがけするときに、最下面に適当な敷物を介置させることは、しばしば行われ・・・運搬、荷役作業を一段と円滑ならしめる。」(同頁右上欄12行ないし左下欄11行)との記載が存し、巻きバンドを包装及び運搬把持手段として使用する例のみならず、厚紙と巻きバンドを組み合わせて一体化された多重包装を慣用手段とし、巻きバンドを運搬時の把持手段とするものも記載されていることが認められ、上記事実に照らせば、上記周知技術は、多重包装に厚紙が使用されていると否とを問わず、採用されているものであることは明らかである。そして、厚紙が互いに平行に対向可能な2つの側壁を有する形状であることが、上記周知技術の採用の妨げとなる事情も窺えない。そうすると、引用例1記載の発明において、互いに平行に対向可能な2つの側壁を有する厚紙を使用しているからといって、上記周知技術の採用が想到困難であったということはできないから、原告の上記主張も失当である。

4  以上のとおり、本願発明が、引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の認定判断に誤りはなく、審決には原告主張の違法はない。

第3  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び附加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)

別紙図面1

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別紙図面2

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別紙図面3

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